趣旨・方針

趣旨

「ハジコミ」を始めたいと思います。勝手につくった造語です。マスコミでもミニコミでもなく、ハジコミ。ハジとハジをつなぐコミュニケーション、端と端をわたす橋になるような対話のプロジェクトです。社会のハジっこに追いやられている問題をテーマとした学習会、インタビュー、座談会などを実施し、その内容は、記事としてネットで無料公開していきます。タモリも「何でも端っこがいいよね。カステラでも端っこがうまい」と言っていました。端っこは、いつも不安定に揺らいでいて、ソトに向かって開かれています。それはまた、対話に開かれているということでもあるでしょう。

私たちは、10年前から「生きづらさからの当事者研究会(づら研)」を開いてきました。人が「生きづらい」というとき、それを本人の問題(発達障害、精神障害など)に限定してしまうのは問題を歪めてしまっている、一方で「社会の問題」とばかり言っていても、自分の生きづらさが解けるわけではない、自分の生きづらさ、抱える「問題」からこそ、“自分”を通して見える“社会”があり、そこから関係のあり方を模索することができるのではないか、それを「研究」という切り口で、他者と共有していくことができないか、というのが、づら研を立ち上げたときの思いでした。

ただ、一口に当事者といっても、それぞれの置かれている状況はちがい、いっしょに考えられることもあれば、なかなか難しいこともあります。とりわけ、社会経済状況については厳しさを増していて、当事者研究という切り口だけでは考え合うことも難しいように感じています。

づら研は当事者性を限定していないので、これまでさまざまな当事者が参加してきましたが、もともとの中心的な当事者性は、不登校やひきこもりにあります。不登校の当事者運動では、厳しい世間の差別や偏見とたたかうなかで、一部の成功例を引き合いにした語りがくり返されてきたところがあります。そうした語りは、差別や偏見をゆるめていく役割を果たした面はあったものの、差別や偏見を生み出す社会のあり方を根本から問うものではなかったと言えます。それは語る側だけの問題ではなく、それを聴く側の問題でもあるでしょう。マスコミでは、マジョリティにわかりやすいかたちの語りばかりが取り上げられ、流布されるところがあります。また、当事者の問題とすることで、問題をどこか他人事としてしまっているところもあるように思います。その一方で、そうした語りからはこぼれる多くの当事者がいます。当然のことながら、学校に行かなくなったり、ひきこもったりすることによって当事者が直面するさまざまな問題は、いまの社会で搾取され、支配され、抑圧されている、すべての人々の問題とつながっています。そうした現実を直視し、考え合っていかないかぎり、その困難さを生み出す社会構造を変える力にはならないように思います。

このプロジェクトでは、自分たちの当事者性や問題意識を出発点としながらも、ひとつの当事者性に限定せず、当事者の枠をはみだすところ、さまざまな文脈がクロスところの対話を大事にしたいと思っています。問題を当事者に閉じ込めず、相手のなかにも自分のなかにもある多様性を大事にしながら、さまざまな人と対話していきたい。そこからは、ひとつの当事者性からだけでは見えてこないものが見えてくるのではないか。そんな思いから、ハジコミ(ハジとハジをつなぐコミュニケーション、端と端をわたす橋になるような対話のプロジェクト)を始めます。

2021年7月12日 「ハジコミ」プロジェクト委員会

方針

・自分たちの当事者性を出発点とするが、問題を「当事者」に閉じ込めない。
・複雑なものをわかりやすいストーリーに単純化しない。
・相手の文脈を尊重する。相手にも自分のなかにもある多様性を大事にする。
・ズレ、ノイズ、ざわつき、矛盾こそ大事にする。
・知らないことには謙虚に。しかし、まちがいをおそれずに。
・正否など二極化しない。また、なんでもありの相対主義にもしない。

※上記方針は、活動しながら気づくことがあれば、それに応じて更新していきます。