学習会「いのちへの礼儀」
講 師:生田武志さん(野宿者ネットワーク代表)
日 時:2020年8月10日
司会進行・記事編集:山下耕平
山下:今日は生田武志さんを招いて、ご著書『いのちへの礼儀』(筑摩書房2019)をもとに、動物と人間との関係について考え合いたいと思います。生田さんは、動物問題の専門家ではなく、野宿者支援や貧困問題などに関わってきた方ですが、この本は、ほんとうに考え抜かれている本で、みなさんといっしょに考え合う時間にしたいと思います。今日は、どうぞよろしくお願いします。
生田:よろしくお願いします。いま、ご紹介いただいたように、ふだんは釜ヶ崎で野宿者支援の活動をしています。33年前から、自分も日雇い労働をしながら、野宿者支援に関わってきました(いまは肉体労働はしていません)。
野宿者と関わっていると、動物と人間との関わりで印象深いことがたくさんあるんですね。野宿者で犬や猫を飼っている人は多いんですが、野宿者の平均月収はおよそ3万円です。アルミ缶集めなどをして、1日10時間ぐらい働いて約1000円。そうすると、犬や猫を飼うのに、自分の収入の半分以上を使っているんです。そうやって、捨てられた動物と、野宿している人がいっしょに暮らしている。それは、家で犬や猫を飼っているのとはぜんぜんちがう関係だという印象なんです。そうしたようすは、小説家の木村友祐さんが『野良ビトたちの燃え上がる肖像』(新潮社2016)で描いています。
ただ、一方で不妊手術をするお金まではないので、西成公園でも、猫がどんどん増えているんですね。なので、私たちがお金を出して不妊手術をしたりもしています。
●ペットをかわいがる一方で
さて、日本ではペットの数は増え続けていて(*グラフ1)、いまや14歳以下の子どもの数よりも、犬や猫のほうが多くなっています。つまり、ペットは子ども以上に身近な存在になっていて、家族の一員になっているわけです。家族の一員なので、病気になったら病院につれていき、場合によっては膨大な治療費を使います。それは、ある意味ではいい話なんですが、犬や猫はかわいがられている一方で、たくさんの動物が見捨てられている現実があります。たとえば、毎日のように、豚、牛、鶏を殺して食べているわけですね。動物を家族同様に大事に扱いながら、一方では家畜を食べ、しかも、その家畜が苛酷な状況に置かれていることは気にしていない。変ですよね。なんで同じ動物なのに、こんなにちがうんでしょうか。私は、動物を、「資本」「家族」「国家」との関係によって、次のように分けてみました。
「家族」=ペット、コンパニオン・アニマル。
「資本」=産業動物(経済動物、実験動物、毛皮などの商品となる動物、私立動物園・水族館の動物)。
「国家」=軍用犬などの使役動物、殺処分動物、野生動物。
それぞれの動物の置かれている状況について、いくつかピックアップして見ていきたいと思います。
*グラフ1 日本の犬・猫・人(65歳以上、15歳未満)の数(一般社団法人ペットフード協会「犬猫飼育率調査」)
●ペットの殺処分は
先ほど、ペットは大事にされていると言いましたが、ひと昔までは、犬や猫を飼っていても、平気で殺していました。
殺処分の件数を見ると(*グラフ2)、1974年には保健所で約122万匹が殺処分されています。このグラフは保健所での殺処分件数ですが、それ以外にも、自分たちでバケツに突っ込んで溺死させるとか、箱に入れて川に流すといったことが、ふつうに行なわれてました。その後、殺処分の件数は劇的に減りました。これはいいことなんですが、2018年でも、3万8000件ほどあります。子犬・子猫のときはかわいかったけど、大きくなってかわいくなくなったとか、子どもが飼いたがったけど、しばらくしたら子どもが飽きたとか、引っ越し先がペット禁止とか、そういった理由で、保健所や動物愛護センターにつれていかれる。飼い主は愛護センターなら引き取り手を探してくれるだろうと思っているんですが、そんなことはなくて、ほとんどは殺されています。
*グラフ2 全国の犬・猫の殺処分数の推移(環境省)
●動物虐待
もっと直接的なかたちをとった暴力として、動物虐待があります。動物虐待は増えていて、史上最高を更新しています。動物虐待は増えていますから、学校教育や社会教育のなかで、人間への暴力と同じように、動物への暴力も考える必要があるかもしれません。昔の法律では動物はモノ扱いだったので、法的には器物損壊だったんですね。1999年に動物愛護法が制定されて、「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない」と定められました(第2条)。これによって、動物虐待は明確に犯罪となったわけです。ただ、動物愛護を主張するなら、それはすぐに肉食の問題にはねかえってくるはずです。犬や猫を傷つけていけないのなら、牛や豚も同じではないか。実際、そう主張している人もたくさんいます。
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